GX(グリーン・トランスフォーメーション)とは、脱炭素を軸にしながら、人の暮らしと地球環境の両方を豊かにしていく変革です。単に排出量を減らすことではありません。たとえば街に木を植えることは、気温上昇を和らげ、生きものの多様性(生物多様性)を育み、人の暮らしにも地球にも恵みをもたらします。GXの本質は、こうした人と地球へのメリットが、複層的に、そして利子のように積み重なって返ってくる点にあります。
GXの本質:人と地球に、複層的に返ってくる
GXがもたらす価値は、脱炭素というひとつの指標にとどまりません。たとえば緑を増やせば、気温が下がり、生態系が豊かになり、人の健康や快適さも高まる——ひとつの取り組みが、人にも地球にも、複数の恵みを同時に生み出します。しかもその効果は一度きりではなく、時間とともに利子のように積み重なって返ってきます。人と地球へのメリットは副次的でありながら、複層的でもある——これがGXの根本であり、単なる数値対応との決定的な違いです。
たとえば、道に木を植え、車を減らすと
具体的に考えてみます。街路に木を植え、その通りを歩行者中心にすると、一見すると「車が通れなくて不便」に見えるかもしれません。しかし実際には、人が歩いて回遊するようになり、周辺の店舗に立ち寄る人や滞在時間が増えます(=店舗の売上という、直接的なメリット)。同時に、交通事故が大きく減り、排ガスが減って空気がきれいになり、木陰で気温も下がります。ひとつの選択が、経済・安全・環境・健康にまたがる複数の恵みを同時に生む——これがGXの発想です。こうした基礎的なメリットの広がりは、数値目標だけを見ていると見えてきません。
GXとSX・カーボンニュートラルの違い
GXを理解するうえで、混同されやすい言葉との違いを整理しておきます。
カーボンニュートラルは「CO2排出量実質ゼロ」という到達点を指す言葉です。一方GXは、その到達点に向かうことを含みながら、エネルギー・交通・食・緑といった社会と事業の仕組みそのものを、人と地球の両方が豊かになる形へつくり変えていく「変革のプロセス」を指します。排出量ゼロを達成しても、人の暮らしが貧しくなってしまえば、それはGXとは呼べません。
そしてSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)は、この変革を企業経営の中心に据えることです。GXが都市や社会の仕組みに焦点を当てるのに対し、SXは「本業そのものをサステナブルに転換したうえで、利益もきちんと出す」という経営の変革を指します。詳しくはサステナビリティ経営(SX)とは?で解説しています。
日本で語られるGXとのギャップ
日本では、GXが「再エネの導入」や「排出量の数値達成」として語られがちで、この「人と地球の両方を、複層的に豊かにする」という本質までは、まだ十分に共有されていません。基準を満たすことがゴールになってしまうと、GXが本来持つ大きな可能性——事業も地域も、人も自然も豊かにする力——を取りこぼしてしまいます。
欧州のGXが「根本的」である理由
Build Vision B.V.が欧州各国を視察してきた中で見えてきたのは、先進的な企業や都市ほど、エネルギー・食・交通・緑を別々に扱わず、ひとつのシステムとして設計し直しているという点です。脱炭素をコストや規制への対応としてではなく、人の暮らしの豊かさと地球の再生を同時に高める機会として活かしているのです。
欧州の都市で実際に起きていること
抽象論ではなく、私たちが提携・交流する都市の実例を挙げます。
ヘルシンキ(フィンランド):私たちが提携するHelsinki Partnersの街。2025年4月には市内最後の石炭火力発電所が稼働を停止し、石炭の時代に幕を下ろしました。デザインとテクノロジーを都市運営に織り込みながら、暮らしの質と脱炭素を同時に高め続ける、欧州GXの最前線を走る素晴らしい都市です。
ラハティ(フィンランド):フィンランドで初めて欧州グリーン首都(European Green Capital 2021)に選ばれた都市。石炭火力を全廃し、家庭ごみの99%以上を再生・エネルギー化しています。実は、この都市は数十年前までは、湖には魚が住めないほど工業汚染のひどい都市だったのですが、今は、その面影はどこにも見ることができません。人口12万人の地方都市が、国の平均を大きく先回りして脱炭素を実現している——「規模が小さいからできない」という言い訳が通用しないことを示す好例です。
コペンハーゲン(デンマーク):都市課題の解決を建築・デザイン・テクノロジーの掛け算で進めるハブ「BLOXHUB」を中心に、官民・分野を横断してGXを推進。自転車中心の交通設計と再開発が連動し、市民の健康・大気・経済が同時に改善する「複層的なリターン」を体現しています。わずか30年前のコペンハーゲンは、工業汚染や構造的な不況などにより、今では想像できないほど悲惨な状況でした。詳細はこちらのレポート(The Copenhagen Way, BLOXHUB)を参照ください。
アムステルダム(オランダ):私たちの拠点であり、研究機関AMS Instituteが都市課題の解決に取り組む街。建物の資材にアイデンティティを持たせる「マテリアルパスポート」の考え方(提唱者:Thomas Rau氏)が生まれた土壌でもあり、サーキュラーエコノミーの実装が最も進む都市のひとつです。
日本企業にはない、私たちの強み
Build Vision B.V. の特徴は、GXが実際に進んでいる欧州・北欧の都市と、じかにつながっていることです。たとえばフィンランドのヘルシンキ市(Helsinki Partners)やラハティ市(LADEC)は、私たちの提携パートナーです。ラハティは、フィンランドで初めて「欧州グリーン首都(European Green Capital 2021)」に選ばれた都市で、石炭火力を全廃し、家庭ごみの99%以上を再生・エネルギー化するなど、GXの最前線を走っています。また、GXの先進地として知られるデンマークのコペンハーゲン市(BLOXHUB などを通じて)とも、かなり近い関係を築いています。さらに、拠点であるオランダ・アムステルダムでは、都市課題の解決に取り組む研究機関 AMS Institute(Amsterdam Institute for Advanced Metropolitan Solutions)とも関係を築いています。日本にいてはたどり着けない一次情報と実践知を、こうしたパートナーシップから直接得ています。
さらに、日本ではまだほとんど知られていない先進的な考え方も、GXの実践に取り入れています。そのひとつが「マテリアルパスポート」です。これは、建物や製品に使われるすべての資材にアイデンティティ(識別情報)を持たせ、素材そのものに価値を与えるという考え方です。「ゴミとは、アイデンティティを失った素材である」——資材を廃棄物ではなく「将来の資源」として扱うことで、循環型(サーキュラー)の経済を実現します。この概念を提唱するオランダの建築家 Thomas Rau 氏(RAU Architects)の考え方を取り入れ、氏本人とも交流を重ねながら、日本にはまだないこのスキームを日本の文脈に合わせて活かしています。
欧州最前線の都市とのパートナーシップ、そして先進的な考え方の実装——これらは、日本企業にはまだ少ない特徴です。GXを「数値対応」ではなく「本質」から進めたい企業・自治体にとって、大きな差になります。
日本企業がGXを進めるには
GXを「数値を満たすための対応」で終わらせないためには、自社の事業が人と地球にどんな価値を返せるのかを問い直す視点が欠かせません。Build Vision B.V.は、欧州の一次情報をもとに、単なる指標対応ではない根本的なGX・SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を、企業・自治体とともに設計・伴走します。
GX・SXのご相談
欧州のサステナビリティ動向やGXの実例をもとに、自社のGXをどう進めるかを一緒に考えたい方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. GXとカーボンニュートラルは何が違いますか?
カーボンニュートラルは「CO2排出量を実質ゼロにする」という到達点を指し、GXはそこへ向かう過程で、エネルギー・交通・食・緑など社会と事業の仕組み全体を、人と地球の両方が豊かになる形につくり変える変革を指します。数値目標の達成だけでなく、暮らしの質や生物多様性など複層的なメリットを生むことがGXの本質です。
Q. なぜ欧州はGXが進んでいるのですか?
欧州の先進都市は、脱炭素をコストや規制対応ではなく「暮らしの豊かさと地球の再生を同時に高める機会」と捉え、エネルギー・食・交通・緑を一つのシステムとして設計し直しているためです。ラハティの石炭全廃と廃棄物99%資源化、コペンハーゲンのBLOXHUBを中心とした官民連携などが代表例です。
Q. 中小企業や地方自治体でもGXに取り組めますか?
取り組めます。むしろ欧州でGXを牽引しているのは人口10〜60万人規模の都市です。重要なのは規模ではなく、「自社・自地域の事業が人と地球にどんな価値を返せるか」を問い直し、小さくても複層的なメリットを生む一手から始めることです。
Q. GXを始めるには何から着手すればよいですか?
まず「数値目標ありき」ではなく、事業・地域の現状を人と地球への価値という視点で棚卸しすることをお勧めします。そのうえで、欧州の一次情報(現地で機能している仕組みや失敗例)を参照しながら、自社の文脈に合う打ち手を設計します。Build Vision B.V.では欧州の提携都市・機関の知見をもとにした伴走支援を行っています。
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執筆・監修
吉田 和充(よしだ かずみつ) — Build Vision B.V. CEO / クリエイティブディレクター
オランダを拠点に、日本と欧州をつなぐクリエイティブコンサルティングファーム Build Vision B.V. を設立・主宰。欧州移住10年以上の知見や、欧州・北欧の自治体・企業とのパートナーシップを通じて、都市づくり・食・エネルギー・環境など幅広い領域でサステナビリティ・プロジェクトを手がける。単純に指標や基準に合わせる施策ではなく、根本的なサステナブル経営、企業や自治体のGX・SXのサポートを得意とする。Regenerative Community Tokyo 発起人。

